会社の新入社員の教育係りを任されている女性から、新人が仕事のミスを連発していて困っている、という相談を受けました。ストレスでとても疲れたそうです。
教えても教えてもミスをするそうです。どうして分かってくれないのかと悩むそうです。
そして言いました。私は教えることが向いていないのかも・・・・って。
これ、誰かさんに似ていますね。
そう。子育てしているお母さんを見ているようです。
言っても言っても言うことをきかない。どうして分かってくれないのかしら、と悩む。
そして、私は育児に向いていないのかも・・・って。
私は彼女とこんな話をしました。
「悩むということは良くなりたいと思うからなんだから、あなたはとても立派だと思う。頑張っているんだね。だからか、話を聞いているとどうやら面倒を見すぎのようだ。
つい何でもやってあげてるね。それはミスを連発する新人ちゃんを信頼できないからだよ。
とっても分かる。新人ちゃんのミスの後始末をするのも、上司に怒られるのもあなただからね。イヤなんだよね。だからつい、何でもやっちゃうんだよね。」
「うん、そう。だって困るのは私なんだもん」
「新人ちゃんに早く仕事をできるようになって欲しい?」
「もちろん!」
「じゃあね、もっと仕事を任せちゃいなさい」
「え?無理無理!またミスされて私が怒られちゃう!」
「それは今でも同じでしょ?」
「まぁ、そうだけど・・・」
「チビチビ小出しでミスされて、そのたんびにキィキィしてたら、いつになっても、あなたも新人ちゃんも本来の仕事ができないじゃん。なぜミスをするのか考えてごらん。
どうせ任せてくれない、失敗したら怒られるのは先輩。って思ってたとしたらさ、その新人ちゃんはいつ自立しようとするのかな。
あの新人は責任感がない、ってあなたは言うけど、その新人ちゃんが責任を感じられる立場にさせてなくない?
悪く言うとね、あなたは新人ちゃんがやるべきことまで奪っていて、なのに、あ〜大変だ!って文句を言っているんだよ。
きっとそういう気持ちが態度にも出てると思う。それをその新人ちゃんは1日中見てるんだ。何をしたらいいのか分からないのに、時々仕事を振られて、どこをどう間違ったのかも分からなくて、先輩はプンプンしてる。先輩のあなたが悩むのと同じぐらい、いやそれ以上、その新人ちゃんは悩んでいるかもしれない。
あなたが新人の頃どうだった?ミスをしたことはないの?」
「ある。いっぱいある。取り返しの付かないミスをして、一番上の上司とお客さんのところにお詫びに行ったこともあるよ」
「そのとき、どんな気持ちだった?」
「せっかく任せてくれた大きな仕事だったのに失敗した自分が悔しかったのと、上司にまで頭を下げさせて申し訳なかったのと、何よりもお客さんに謝っても謝りきれないぐらい、大変なことをしたと思って申し訳なかった。一生懸命謝った」
「その後はどうなった?」
「失敗しないようにすごく慎重に仕事をやった」
「上司はどうだった?」
「自分も大きなミスをしたことがあるから気にするな。みんな一度はやるんだから、って言ってくれた。その場で泣いちゃった・・・、嬉しくって」
「ほら。ちゃんと答えを知ってるじゃん。ね、どうせ失敗しちゃうんだよ。失敗されたらどうしようってハラハラしてるよりさ、失敗させてやろうって思ったほうが気が楽だし、
あなたの器も大きくなる。
あなたの上司はね、失敗させる速度を上げたんだ。どうせ失敗するんだからって、大事な仕事もあなたに任せちゃって、速く失敗させてくれたんだよ。
だから今のあなたがいるんじゃない」
「うん。言われてみればそうかも。そんときは怖かったし緊張したけど、嬉しかったし頑張った! 失敗しちゃったけどね・・・」
「責められたかい?」
「ちっとも。逆に励まされた!」
「ほらほら。答えはちゃんとあなたが経験してる。その新人ちゃんにもさ、早く失敗させなよ。もっとさ、任せてあげなよ。そんでさ、失敗しちゃったら一緒に謝ってあげたらいいじゃんか」
「そうだね、そのほうがいいね」
「そう。仕事って言うのは流れがあってね、そのごく小さい一部しか見せてやっていないと、自分のミスがどこにどう影響するのか分からないんだよ。そうなるとね、ミスに対して責任とか感じられないんだ。あ〜また先輩に嫌な顔される、ぐらいにしか思えない。
でもそれって先輩であるあなたが作り出していることでね、相手はそれに反応しているだけなんだよ」
「なるほどねぇ・・・」
「失敗させてやれる? 信頼してやれる?」
「うん。なんだか自分がお釈迦様みたいな気分になってきた」
「そう。それでいい。見守るってことはとても難しいけど、でもそれを乗り越えたとき、あなたという器もでっかくなるんだ」
「ありがとう。本を読むより勉強になった!」
人に何かを教えるとき、実は自分が一番教えられているんです。どうやって教えたら分かりやすいか、とか、失敗したときはどう対処していけばいいか、とか。
悩んだりイライラしたりすると思います。
なぜこちらの言っていることを理解してくれないのかと。
でもその多くは自分で作り出している感情なのです。わかって欲しいって思いすぎてるだけです。分かるかどうかは相手が決めることなのに、分かれ!って思う、自分の気持ちが作り出す感情そのものなのです。
出来の悪い子ほどかわいい、と言いますが、まさしくその通りで、
出来の悪い子には教えられることが多いからなのです。
イライラしたら、そっと目を閉じて自分の心に聞いてみると分かります。
あ、自分が作っちゃった感情だなぁって。
気づけば鎮めることができるようになります。
そしてまた、いつものニコニコ母さんに戻れるのです。
お母さんという生き物は、とても忍耐強いといつも思います。
10ヶ月間、赤ちゃんをお腹に入れて、生まれれば3時間おきに授乳して、
話の通じない相手に一生懸命いろんなことを教えて、そして自我が目覚めて反抗されても子どもを愛して。
魂に経験値があるのだとしたら、お母さんという経験をしたことがあるひとは、めちゃめちゃ高いポイントを取っていると思います。
今、育児の大変さを誰が分かってくれないとしても、育てた子どもだけは必ず分かってくれます。心から感謝してくれます。
人間生きていて、心の底から感謝されるという経験を、いったいどれほどの人ができるでしょうか。
お母さん。あなたは本当に素晴らしいんです。
あなたは神様ぐらい素晴らしい。
人というものをお腹の中で作り出し、そして愛情という大きな力で育てていく。
だから本当にありがとう、なんです。
ひとひら
☆ 悩みは自分がこしらえる
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